Coleoptera 甲虫目  

 Polyphaga カブトムシ亜目(多食亜目)

  Staphyliniformia ハネカクシ下目

    Staphylinoidea ハネカクシ上科

     Staphylinidae ハネカクシ科

      Aleocharinae ヒゲブトハネカクシ亜科  ←ココ!


 

Subfamily Aleocharinae Fleming, 1821 ヒゲブトハネカクシ亜科

(模式属: Aleochara Gravenhorst, 1802)

〈本データベースに収蔵されている本亜科の画像集〉

Aleocharini ヒゲブトハネカクシ族

Athetini ヒメハネカクシ族

Autalini スジハラハネカクシ族

Falagriini セミゾハネカクシ族

Gymnusini トマムハネカクシ族

Homalotini カレキハネカクシ族

Hypocyphtini ケシハネカクシ族

Liparocephalini ウミハネカクシ族

Lomechusini アリノスハネカクシ族

Myllaenini ミギワハネカクシ族

Oxypodini ゴミハネカクシ族

Termitohospitini  シロアリヤドリ族

 

 

本稿は,「日本産ヒゲブトハネカクシ亜科ヒゲブトハネカクシ族について」と題して山本(2010)で発表した内容を基にして作成したものである.

 

ヒゲブトハネカクシ亜科は,およそ59130014000種で構成されるハネカクシ科Staphylinidaeの中の非常に大きな一亜科である.本亜科の分布は極めて広く,赤道付近の熱帯地域はもちろんのこと,極寒の極地域周辺でも生息が確認されている.また,地球規模の環境だけではなく,高山・地中・海岸・樹上・洞窟などの他,鳥類や哺乳類の巣・社会性昆虫の巣といったあらゆる小環境にも適応していることが知られている.しかしながら,適応の結果による際限のない多様性,全世界にまたがる分布,そして多数の小型種や類似種の存在などは本亜科の研究を遅らせている.

 

専門用語について

本解説では,体の部位を初めとした多くの専門用語が登場する.それらに日本語の名前が付いている場合はそれぞれの部位に対応した日本語を採用し,付いていない用語に関しては英語(原文)のまま記してある.なお,使用している用語に関しては,「昆虫学辞典」(素木編, 1962)及び「原色日本甲虫図鑑(I)」(森本・林編, 1986)を参考にした.


その他,ハネカクシ科一般の構造についてはBlackwelder(1936)が特に詳しく,ヒゲブトハネカクシ亜科の構造に関しても複数の研究者が解説している(Klimaszewski, 1984; Maruyama, 2006; Sawada, 1972など)

 

日本産ヒゲブトハネカクシ亜科の分類

日本国内からは20111月の時点で,19103350種が知られているが,膨大な未記載種を抱えているために分類は未だ発展途上の段階であり,直海(2004)700種程のさらなる追加種を見込んでいる.


現在,日本産ハネカクシ科は4亜科群,合計21亜科(コケムシ亜科Scydmaeninaeを含む)に分類されているが,ヒゲブトハネカクシ亜科はこの中のシリホソハネカクシ亜科群に含まれている.

 

 

ヨツメハネカクシ亜科群Omaliine Group,シリホソハネカクシ亜科群Tachyporine Group,セスジハネカクシ亜科群Oxyteline Group,ハネカクシ亜科群Staphylinine Group

 

外部形態の概要

数ミリ程度の小型種が大半を占める.頭部は通常小さく,腹板は強く膨隆しない.上翅は短い.触角は通常11節で稀に10節から構成され,単純な形状もしくは先端にいくほど太くなり,頭部上面(頭頂)の複眼前縁の内側に挿入される.色彩は茶褐色などの地味なものが多い.附節式は通常,4-5-55-5-5又は,4-4-5(以上はFrank & Thomas, 1991; Klimaszewski, 2000; Seevers, 1978; 柴田, 1985などによる)

 

外部形態

ヒゲブトハネカクシ亜科には15mmにも達する種が含まれるが,ほとんどの種は小型であり(2-6mm),中には1mmを下回るものも存在する(Seevers, 1978)体型は細長い種が多いが,Gymnusa属やAleochara属のように大きく頑丈な分類群もある(Klimaszewski, 2000).好蟻性や好白蟻性の種の中には奇妙な形態を有するものがある.体色は茶褐色を呈する種が全体的に多く,赤褐色から黒色,もしくは黄褐色から成り,幾つかの種は点状の模様をもつ.体表は軟毛に覆われているものからほとんど無毛な群まで様々であり,光沢のある種から艶消し状の種まで変化がある.頭部は小さいものが普通であり,Autaliini族やFalagriini族などの特別な分類群を除いて,通常明瞭な首を持たない(Klimaszewski, 2000).複眼は通常外部に膨出しない.触角は様々な形があり,通常11節から構成される(Oligota属等は例外で10節).本亜科の定義となる形態的特徴として,触角の基部は頭部上面の複眼前縁の内側に位置する(柴田, 1985).口器の小あご髭は4節(Aleocharini族とHoplandriini族は5節)で下唇髭は3節(同4節)から成る.腹部は10節で柔軟性があり,基部の2節分は上翅に隠れ,910節は交尾器と関連して変形する.第8背板及び腹板には種ごとの違いが現れやすい.脚の附節の数は族レベルの識別に有用であり,附節式は通常,4-5-55-5-5又は,4-4-5である.雄交尾器は巨大で複雑な側片を持つ.幼虫は上咽頭の中央横断列に6-8個の細穴があり,大顎には拡大した磨砕部を持つ(Klimaszewski, 2000)

 

分類の歴史

二語名法による分類体系の基礎を確立したC. Linnaeusにより,本亜科の種を含むすべてのハネカクシ科Staphylinidaeに属する種は,Staphylinus属のもとに記載された.その後,J. L. C. Gravenhorst1802年に初めてヒゲブトハネカクシ亜科のAleochara及びCallicerus属を提唱したが,当時(1831年まで)はハネカクシ科を亜科に分ける体系が整備されていなかった.本亜科におけるこの体系は,C. G. MannerheimW. F. ErichsonM. BernhauerO. Scheerpeltzといった研究者によって構築された.族への分割はG. KraatzC. G. ThomsonE. Mulsant,C.Rey,あるいはL. Ganglbauer等による貢献が非常に大きい(以上はSawada, 1972; Seevers, 1978などを参考にした)

 

日本産種に関しての本格的な本亜科の研究は,イギリス人のD. Sharp1800年代に公表した「The Staphylinidae of Japan」と題した一連の論文(Sharp, 1874; 1888; 1889)から始まった.1900年代前半では,オーストリアのM. BernhauerやイギリスのM. Cameronが膨大な種を世界中から記載したが,その中には数多くの日本産種が含まれていた.その後は中根猛彦博士が1960年代に活躍し,澤田高平博士(及び吉井良三博士)は1970年代を中心にヒメハネカクシ属Athetaなどを中心に精力的な研究に取り組んだ.80年代からは直海俊一郎博士,90年代に突入してからは岸本年郎博士,好蟻性及び海浜性ヒゲブトハネカクシが専門の丸山宗利博士が活躍し,部分的に本亜科の本邦におけるファウナが明らかになった.

 

分布と生息場所

北極や南極などの極地域を含む全世界から知られ,地上のあらゆる環境に生息するが,暖温帯や熱帯地域に数多くの種が分布しており,特に熱帯における多様性は極めて高い。本亜科の成虫及び幼虫は,節足動物やハエ類の幼虫,卵を捕食するので,腐った動植物質やリター(土壌)などに集まることが知られているが,中にはキノコや腐った海藻,木の皮の下でも見られる(Seevers, 1978; Klimaszewski, 2000).中にはミチコヒメハナハネカクシOmoplandria gyrophaenula (Sharp)のような訪花性の種も知られている(Kishimoto, 2002).また,好蟻性や好白蟻性を示す種が本亜科には多い.さらにヒゲブトハネカクシ亜科は,高山・地中・海岸・海中・樹上・洞窟などの他,鳥類や哺乳類の巣といったあらゆる小環境にも適応していることが知られている.これらの詳細や採集法は「ハネカクシ科」の項目を参照下さい.


解剖方法

ヒゲブトハネカクシ亜科は甲虫目の中でも最も分類が困難な一群として知られており,外見のみで種の同定を行うのは極めて危険である.そこで,成虫の腹部などを解剖・分解して内部形態も詳細に観察する必要性が生じる.解剖は非常に細やかな作業を要求されることから,相応の訓練を伴うことになるが,挑戦される場合はHanley & Ashe (2003)を参照願いたい.解剖した標本資料を観察し易いようにスライドガラス上に封入する方法は,Maruyama(2004)でも解説している.封入剤の1種,ユーパラル(euparal)を用いた封入・観察の方法は直海(1999)に詳述されており,きわめて参考になる.また,この手法に役立つ道具も報告されている(西川, 2011)

 

Webサイト

近年はインターネットを初めとする情報技術の発展・普及により,様々な情報をパソコンで入手する機会が増加している.昆虫類も例外ではなく,有用な情報をインターネット上で簡単に手にすることができる.ここでは,ヒゲブトハネカクシ亜科の情報を入手できるサイトを3つほど紹介する[参照日:2010116]

 

1) Aleocharine Staphylinid Image Databasehttp://www.nhm.ku.edu/ashe/aleo/

 本データベースはJames S. Ashe博士らによって開設され,本亜科に属する族/亜族//種の画像や絵を参照することができる。2011年5月末現在,何故かコンテンツを参照できなくなっている.

 

2) Tree of Life web projecthttp://tolweb.org/Aleocharinae

 ヒゲブトハネカクシ亜科の様々なグループの情報を幅広く入手することが可能である.使用言語は英語であるが,系統関係も含めた解説は詳しく,ぜひ一度ご覧頂きたい.代表的な族や属に含まれる種の写真や画像を見ることができる.

 

3) Catalog of higher taxa, genera and subgenera of Staphyliniformia [online]. Field Museum of Natural History, Chicago; http://archive.fieldmuseum.org/peet_staph/db_1a.html

 このデータベースは2005年にA. F. Newton博士とM. K. Thayer博士の両博士によって開設された.ハネカクシ上科に含まれる全ての科や属,亜属の名前や位置付けなどを調べることができる.

 

その他

ヒゲブトハネカクシの中には繭を生み出す複数種の存在が知られている.このことはFrank & Thomas (1984)にまとめられているので参照頂きたい.

 

〈参考文献〉

*[]内は山本が適当な邦題や論文内容を記した.

Arnett, R. H., JR., 1963. The beetles of the United States (a manual for identification). Catholic University of America Press, Washington, D. C. xi+1112pp. [アメリカの甲虫を解説した古い文献であるが,検索表や科の記載,族などの形態的特徴といった有益な情報が掲載されている.]

Blackwelder, R. E., 1936. Morphology of the Coleopterous family Staphylinidae. Smithsonian Miscellaneous Collections, 94(13): 1-102. [ハネカクシの形態を非常に細かく記載している重要な文献.]

 

Ashe, J. S., Watrous, L. E., 1984. Larval chaetotaxy of Aleocharinae (Staphylinidae) based on a descriptions ofAtheta coriaria Kraatz. The Coleopterists Bulletin38(2): 165-179. [ヒゲブトハネカクシ亜科の幼虫形態について.Atheta coriaria を基にして,細毛の呼称などを提案している.]

 

Brunke, A., Newton, A., Klimaszewski, J., Majka, C., Marshall, S. 2011. Staphylinidae of Eastern Canada and Adjacent United States. Key to Subfamilies; Staphylininae: Tribes and Subtribes, and Species of Staphylinina. Canadian Journal of Arthropod Identification No. 12, 20 January 2011, available online at http://www.biology.ualberta.ca/bsc/ejournal/bnkmm_12/index.html, doi: 10.3752/cjai.2011.12. [ハネカクシ科から亜科までの絵解き検索表が付いており便利.]

 

Frank, J. H., Thomas, M. C., 1984. Cocoon-spinning and the defensive functions of the median gland in larvae of Aleocharinae (Coleoptera, Staphylinidae): a review. Quaestiones Entomologicae, 20: 7-23. [繭を作るヒゲブトハネカクシ亜科について.レビュー.]

 

Frank, J. H., Thomas, M. C., 1991. The rove beetles of Florida (Coleoptera: Staphylinidae). Entomology Circular 343.[フロリダ州から記録されたハネカクシの亜科の識別法を解説.]

Hanley, R. S., & Ashe, J. S., 2003. Techniques for dissecting adult aleocharine beetles (Coleoptera: Staphylinidae). Bulletin of Entomological Research, 93: 11-18.[ヒゲブトハネカクシ亜科成虫の解剖方法を図入りで解説している.]

 

Klimaszewski, J., 1984. A revision of the genus Aleochara Gravenhorst of America north of Mexico (Coleoptera: Staphylinidae, Aleocharinae). Memoirs of the Entomological Society of Canada, 129: 1-211. [北アメリカのAleochara属のレビィジョン.本属の最もまとまった論文.]

 

Klimaszewski, J., 2000. Diversity of the rove beetles in Canada and Alaska (Coleoptera Staphylinidae). Memoire de la Societe royale belge d’Entomologie, 39: 3-126. [カナダとアラスカのハネカクシについてまとめている.ハネカクシ科や各々の亜科も記載している.]

 

Kishimoto, T., 2002. A redescription of Omoplandria gyrophaenula (Sharp) (Coleoptera, Staphylinidae, Aleocharinae). Special Bulletin of the Japanese society of Coleopterology, 5: 221-226. [ミチコヒメハナハネカクシの再記載.生態写真を含む.]

 

Maruyama, M., 2004. A permanent slide under a specimen. Elytra, 32(2): 276. [針刺しスライドの作り方.解剖した標本資料を封入するためのガイド.]

 

Maruyama, M., 2006. Revision of the Palearctic species of the myrmecophilous genus Pella (Coleoptera, Staphylinidae, Aleocharinae). National Science Museum, Tokyo Monograph, 32: 1–207. [旧北区の好蟻性クサアリハネカクシ属Pellaのレビィジョン.]

 

森本桂・林長閑(), 1986. 原色日本甲虫図鑑(I). 323pp. 保育社, 大阪.

 

直海俊一郎, 1999. 3.ユーパラルを用いたハネカクシ類の交尾器等の封入と観察.ハネカクシ談話会ニュース, 8: 2-7.[内容はネット上で参照できる⇒http://research.kahaku.go.jp/zoology/hane/news/news8.html

 

直海俊一郎, 2004. ハネカクシ上科の分類学についての近年の発展. 昆虫と自然, 39(3): 19-22. 

 

Newton, A. F., Thayer, M. K.,  Ashe, J. S.,  Chandler, D. S., 2000. Family 22. Staphylinidae Latreille, 1802, pp. 272-418. In: R. H. Arnett, Jr. & M. C. Thomas (eds.), American Beetles, Vol. 1. Archostemata, Myxophaga, Adephaga, Polyphaga: Staphyliniformia. CRC Press, Boca Raton, Florida. xv + 443 pp. [ハネカクシの形態記載,アメリカに産する亜科や族,属の解説]

 

西川正明, 2011. 交尾器などのユーパラル封入の際に便利な道具. さやばねニューシリーズ, 2: 40-41.

 

Sawada, K., 1972. Methodological Reseach in the taxonomy of Aleocharinae. Contribution from the Biological Laboratory Kyoto University ,24(1): 31-59. [ヒゲブトハネカクシ亜科の形態を詳細に解説している.図も多用されており,大変参考になる.]

 

Seevers, C. H., 1978. A generic and tribal revision of the North American Aleocharinae (Coleoptera, Staphylinidae). Fieldiana Zoology, 71: 1-289. [北アメリカのヒゲブトハネカクシ亜科を族や属に至るまでまとめた大論文.]

 

柴田泰利, 1985. ヒゲブトハネカクシ亜科. 上野俊一ほか, 原色日本甲虫図鑑(II): 318-321, pl, 56. 保育社, 大阪.

 

素木得一(編), 1962. 昆虫学辞典. 1098pp, 52pls. 北隆館, 東京.

 

Thayer, M. K., 2005. 11. Staphylinoidea 11.7. Staphylinidae Latreille, 1802, pp. 296-344. In:

Coleoptera, Vol. I. Morphology and Systematics (Archostemata, Adephaga, Myxophaga, Polyphaga partim). Handbook of Zoology Vol. IV, Part 2. Arthropoda: Insecta (ed. by Kristensen, N.P. & Beutel, R.G., vol. ed. by Beutel, R.G. & Leschen, R.A.B.). De Gruyter, Berlin, New York. [ハネカクシ科概論.形態のみではなく,ハネカクシに関するあらゆる情報がまとめられている]

 

 

山本周平, 2010. 日本産ヒゲブトハネカクシ亜科ヒゲブトハネカクシ族について. ハネカクシ談話会ニュース, 38: 1-8.

Last updated: 18 April 2013